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ESGフロントライン:潮流を読む~SEC気候開示規則の弁護を放棄ー規制後退の中で問われる企業の姿勢と対応 - ESG Journal

ESGフロントライン:潮流を読む~SEC気候開示規則の弁護を放棄ー規制後退の中で問われる企業の姿勢と対応

※本記事は、ESG Journal編集部が注目のニュースを取り上げ、独自の視点で考察しています。

3月27日、米証券取引委員会(SEC)が、企業に対する気候関連リスクの開示規則を裁判で擁護しない方針を示した。この記事では、その決定の背景と実質的な意味、今後の企業への影響について解説する。

気候関連開示ルール、SECが弁護を撤回

米証券取引委員会(SEC)は3月27日、企業に対して気候変動リスクや温室効果ガス(GHG)排出量の開示を求める規則について、裁判所での弁護を取りやめると発表した。この規則は2024年3月に採択されたもので、上場企業に対して気候変動が事業に与える影響や、GHG排出に関する情報を開示することを求めていた。

しかし、規則の導入後、複数の州政府および民間団体が、企業に過度な負担をかけるものだとして訴訟を起こし、現在は第8巡回区控訴裁判所(アイオワ州)で審理が進められている。SECはすでに規則の施行を一時停止していたが、今回の決定により、自らの主張を取り下げ、提出済みの弁護文書も放棄することを裁判所に正式に通知した。

国際基準との整合性を意識した規則設計

SECの気候関連開示規則は、独自の米国的枠組みの中で設計されつつも、国際的な基準との整合性も一定程度考慮されていた。とりわけ、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が公表した「IFRS S2 気候関連開示」や、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った構成が見られた。

規則では、企業が直面する物理的リスクや移行リスクの記述、GHG排出量(Scope 1およびScope 2)の定量的な開示などが求められ、これらはTCFDおよびISSBの基本方針と一致する内容であった。一方で、ISSBが推奨するScope 3(バリューチェーン全体の排出)については、SEC規則では一部の企業に免除措置を設けるなど、柔軟性を持たせていた点が特徴であった。

このように、SECは国際基準を意識しつつも、米国内の法制度や企業負担を考慮し、バランスを取った制度設計を試みていた。

実質的な規則の断念

今回のSECにより示された「法廷での弁護の取りやめ」は、実質的にSECが自ら制定した規則の維持を断念したことを意味する。裁判の中でSECが規則を擁護しないことで、反対側の主張が通りやすくなり、最終的にこの規則が無効と判断される可能性が高まる。

一方で、この決定のプロセスには批判の声も上がっている。SECのクレンショー委員は声明で、「SECがこの規則から手を引くのではなく、本来は適切な手続きに基づいて修正または撤回すべきであった」と指摘し、裁判所に判断を委ねる今回の対応を厳しく非難した。また、投資家からの情報開示への需要は依然として高く、規則の根本的な必要性は失われていないとの見方も根強い。

実際に、サステナブル投資を推進する団体や機関投資家の間では、今回の決定を「後退」と受け止める声が広がっている。Ceres Accelerator for Sustainable Capital Marketsのスティーブン・M・ロススタイン氏は、「50兆ドル規模の資産を運用する投資家が気候関連リスク情報を必要としている中、この決定は市場参加者に必要な情報を遠ざけるものだ」と述べた。

今後の展開として、SECが正式に規則を廃止する手続きを取るかどうかは現時点で不透明である。ただ、法廷での弁護放棄によって訴訟はルール無効化の方向に進む可能性があるものの、制度自体が完全に覆るかどうかはなお予断を許さない。投資家や市場からの情報開示要請が根強いことを踏まえれば、SECの規制動向や司法判断の行方を注意深く見守る必要がある。

開示は企業の競争力にもつながる

気候関連情報の開示は、単なる規制対応ではなく、企業にとって中長期的な競争力を左右する重要な要素である。とりわけ、SECの規則が不透明な状況となった今、自主的に開示を行う企業は、投資家や顧客に対して先進的な姿勢を示すことができ、他社との差別化にもつながりやすい。

さらに、異常気象や災害の頻発、エネルギーコストの変動など、不確実性の高い経営環境の中では、気候リスクへの備えとその情報開示は、企業としての責任ある最低限の対応とも言える。制度が後退したからといって、企業としての取り組みや透明性の確保まで手を緩めるべきではない。

むしろ、開示が義務ではなくなることで、企業は自らの判断でより柔軟かつ戦略的に情報を整理し、ステークホルダーに対して独自の価値を訴求するチャンスでもある。規制に縛られず、主体的に取り組む姿勢こそが、信頼を高め、将来の持続的成長につながるだろう。

文:竹内愛子(ESG専属ライター)

【参考ページ】

https://www.sec.gov/newsroom/press-releases/2025-58

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